東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)219号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件審決の認定判断は正当であり、以下に説示するとおり、原告の主張は、いずれも理由がないものというべきである。
1 成立に争いのない甲第二号証の二(本件登録意匠の意匠公報)並びに第三号証の一及び三(引用意匠の意匠登録願書及びその添附図面)によれば、本件登録意匠は、前示のとおり意匠に係る物品を「額受金具」として、昭和四九年九月一六日意匠登録出願、昭和五一年五月一七日設定の登録がされた別紙図面(一)に示すとおりの意匠であり、他方、引用意匠は、意匠に係る物品を「額縁用吊金具」として、昭和四九年八月二三日意匠登録出願、昭和五二年六月二二日設定の登録がされた(なお、引用意匠についての叙上の事実は、当事者の明らかに争わないところである。)別紙図面(二)に示すとおりの意匠であつて、両意匠の構成は、本件審決の認定のとおりであるもの(なお、両意匠とも吊環は、筒部内においてその一短辺部が鈎状に切断されているものを含む。)と認められるところ、右認定の両意匠の構成を対比すると、両意匠の共通点及び相違点は、本件審決認定のとおりであることを認めることができる。
2 そこで、両意匠の類否について検討するに、両意匠の相違点の一つである取付座中央の切截部の差異は、前認定の構成から明らかなとおり、水平部分の有無だけであり、その水平部分も僅かであつて、両意匠ともに「<省略>」状に切截した印象を看者に与えるものということができるから、部分的な微差にすぎず、結局、両意匠の取付座は、看者にほとんど同じ印象を与えるものというべく、また、第二の相違点である吊環の形状の差異は、本件登録意匠では、長方形環の一短辺部をほぼ半円弧状としているのに対し、引用意匠では、長方形環の一角部をほぼ四分の一円弧状としているものであつて、円弧状に形成している点で共通しており、しかも、両意匠の右の吊環の形状は、後記認定のとおりいずれも公知の形状であるから、両者を対比した場合、右吊環の形状の差異が特に看者の注意を惹くほどのものとはいえず、したがつて、両意匠を全体として観察するとき、前認定の両意匠の共通点(本件審決認定の(イ)ないし(ホ)の点)をなす構成が最も看者の注意を惹く特徴的な形状として両意匠の要部をなすものと認めるのが相当である。
ところで、原告は、右共通点をなす、(イ)取付座の中央部をループ状に曲折して筒状とし、(ロ)曲折基部の上下辺を「<省略>」に切截し、(ハ)その左右両側を先端に向けて漸次先細として両端部を円弧状とし、(ニ)中央部に小円を穿ち、(ホ)筒部に長方形環の一短辺部を円弧状とした吊環を貫通している点の構成は、いずれもありふれた公知の形状であつて、看者の注意を惹く部分ではないから、両意匠の要部ではない旨主張するから、検討するに、成立に争いのない甲第四号証(昭和四一年三月九日意匠登録出願、同四三年八月一七日設定登録に係る登録第二八八〇七九号意匠の意匠公報。同年一一月一九日発行)によれば、右の(イ)の構成は、額縁用吊金具において、両意匠の意匠登録出願前公知の形状であることが認められ、また、成立に争いのない甲第一〇号証(昭和四九年一一月二六日実用新案登録出願、同五一年六月二日公開、同五二年五月一六日実用新案出願公告昭五二―二一二七八号実用新案公報)によれば、右の実用新案公報の第2図に、従来品の斜視図として、額縁用吊金具において、取付座の曲折基部の左右両側中央部に小円を穿つた形状が図示されていることが認められるから、両意匠の前記(ニ)の構成も、両意匠の意匠登録出願前公知であつたものということができ、更に、右の(ロ)の構成は、本件審決において、本件登録意匠の「<省略>」状及び引用意匠の倒「<省略>」状を含む広い意味の切欠部をいうものとして認定されているところ、そのような構成も、前掲甲第一〇号証によつて公知であつたものと認めることができ、更にまた、右の(ホ)の構成は、本件審決において、本件登録意匠の横長長方形環の一短辺部をほぼ半円弧状に形成した吊環及び引用意匠の横長長方形環の一角部をほぼ四分の一円弧状に形成した吊環を含むものとして認定されているところ、右の本件登録意匠の吊環の形状は、証人菅沼正明の証言及び同証言により成立の認められる乙第五号証(カタログかもめ印商報第一〇二号)によれば、前示両意匠の意匠登録出願前公知であつたもの(原告主張のように新規なものではない。)と認められるから、右の(ホ)の構成も、両意匠の意匠登録出願前公知であつたものと認めることができ、その意味において、両意匠の右の(イ)、(ロ)、(ニ)及び(ホ)の構成は、特に看者の目を惹く形状であるとはいえないが、右の(ハ)の構成が公知であつたことを認めるに足りる証拠はなく、しかも、両意匠の前認定の構成に照らし、右の(ハ)の構成は、看者の目に触れ易いものと認められ、両意匠を全体としてみるときは、右の(イ)ないし(ホ)の構成は、前認定説示のとおり看者に格別の美的印象を与えうるものということができるから、右の(イ)ないし(ホ)の構成をもつて両意匠の要部でないとする原告の主張は、採用の限りでない。なお、原告は、右の(ハ)の構成は、前掲甲第四号証にみられる公知の額縁用吊金具の取付部両先端を甲第一四号証(特公昭四〇―一四九九三号特許公報)及び甲第一五号証(実公昭四六―二五五八五号実用新案公報)の止具形状に置き換えた同一又は類似物品間の転用にすぎない旨主張するが、成立に争いのない甲第一四号証及び第一五号証によれば、そこに記載されている「突出部30」や「押へ爪2」は、額縁の裏板の押え具であつて、額縁用吊金具ではないことが認められるから、右の甲第一四号証及び第一五号証をもつて両意匠の右の(ハ)の構成が公知であるとすることはできない。
また、原告は、両意匠に係る物品の額縁用吊金具の機能、吊環の常態、吊環の意匠全体に占める面積等によれば、両意匠の構成のうち、看者の目に最も触れ易いのは吊環の形状であるから、吊環の構成にのみ両意匠の要部がある旨主張するが、額縁用吊金具の用途及び機能並びに前認定の両意匠の構成に徴すれば、両意匠の吊環の形状は、看者の目に触れ易いものと認められるけれども、前掲甲第二号証の二及び甲第三号証の三並びに成立に争いのない甲第七号証(原告作成の本件登録意匠を補充する意匠図面)及び甲第八号証(原告作成の引用意匠を補充する意匠図面)によれば、吊環が取付座の上に倒れた状態(原告が主張する取引において通常みられる状態)においても、取付座の形状は、吊環が覆う部分が見えないだけで、その大部分が看者の目に触れるものであり、しかも、その面積において取付座の方がはるかに広いことが認められるほか、両意匠の吊環は、長方形環の一短辺部を円弧状に形成している点で共通していること前説示のとおりであるから、両意匠を全体としてみるとき、前認定説示の両意匠の要部に比較し、吊環の形状の差異が看者に与える印象は希薄化を免れず(叙上認定を覆すに足りる証拠はない。)、したがつて、吊環の構成をもつて両意匠の要部となす原告の主張は、採用することができない。
更に、原告は、両意匠の吊環の形状の差異は、看者の目に最も触れ易い吊環先端頭部に形成され、その形状は、引用意匠では、頭部がくちばし状ないしは包丁の刃先状に構成されているのに対し、本件登録意匠では、頭部が円頭の全体として半楕円形状に構成されているので、視界上歴然と確認しうること、取引者又はユーザーは、吊環の機能の差異に関心を寄せ、かつ、着目して取引するものであることなどを理由として、両意匠の吊環には、両意匠の類否判断を左右する相違点がある旨主張する。しかし、両意匠の吊環先端頭部の形状の差異は、前認定説示のとおり、両意匠を全体としてみるとき、格別の印象を看者に与えるものとはいい難いものであり、また、原告主張の両意匠の吊環の形状に表われた機能上の差異も一般の需要者に対し混同のおそれを全く排除するほどのものということはできず、したがつて、原告の右主張も採用の限りでない。
してみれば、両意匠は、前認定の要部において共通しており、その余の差異は両意匠の類否を左右するほどのものとはいえないから、両意匠はその美感において類似するものというべきである。
(結語)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却する。
〔編註その一〕 本件における請求原因は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、意匠に係る物品を「額受金具」とする別紙図面(一)の意匠(以下「本件登録意匠」という。)について意匠登録(昭和四九年九月一六日意匠登録出願、昭和五一年五月一七日設定登録、意匠登録第四三〇九七五号。以下「本件意匠登録」という。)を受けた意匠権者であるところ、被告は、昭和五二年一月二四日、特許庁に対し、本件意匠登録無効の審判を請求し(昭和五二年審判第一二二二号事件)、昭和五八年八月一五日、「本件意匠登録を無効とする。」旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、同年一〇月二〇日、原告に送達された。
二 本件審決理由の要点
1 本件登録意匠は、意匠に係る物品を「額受金具」とし、その形態は、横長長方形板の中央部をループ状に曲折して筒状とし、曲折基部の上下辺を「<省略>」状に切截し、その左右両側を先端に向けて漸次先細として両端部を円弧状とし、中央部に小円を穿つて形成した取付座の筒部に、横長長方形環の一短辺部をほぼ半円弧状に形成した吊環を貫通したものであることが、願書の記載及び願書に添附された図面の記載によつて認められる。
2 甲第一号証(本訴の甲第三号証の三と同じ。)の意匠(以下「引用意匠」という。)は、意匠に係る物品を「額縁用吊金具」として、昭和四九年八月二三日意匠登録出願、昭和五二年六月二二日設定の登録がされたものであつて、その形態は、横長長方形板の中央部をループ状に曲折して筒状とし、曲折基部の上下辺を倒「<省略>」状に切截し、その左右両側を先端に向けて漸次先細として両端部を円弧状とし、中央部のやや先端寄りに小円を穿つて形成した取付座の筒部に、横長長方形環の一角部をほぼ四分の一円弧状に形成した吊環を貫通したものであることが、願書の記載及び願書に添附された図面の記載によつて認められる(別紙図面(二)参照)。
3 本件登録意匠と引用意匠とを対比すると、両者は、意匠に係る物品を同一とし、その形態においても、(イ)取付座の中央部をループ状に曲折して筒状とし、(ロ)曲折基部の上下辺を「<省略>」に切截し、(ハ)その左右両側を先端に向けて漸次先細として両端部を円弧状とし、(ニ)中央部に小円を穿ち、(ホ)筒部に長方形環の一短辺部を円弧状とした吊環の貫通している点で共通しており、この点が両意匠の特徴を最もよく表わし看者の注意を惹くところであるから、両意匠の類否判断を左右する主要部と認める。
他方、取付座中央の切截部の態様において、引用意匠は、倒「<省略>」状で中央部に水平部分を有しているのに対し、本件登録意匠は、「<省略>」状であつて、水平部分が無い点で差異がある。また、吊環において、引用意匠は、長方形環の一角部をほぼ四分の一円弧状としているのに対し、本件登録意匠は、長方形環の一短辺部をほぼ半円弧状としている点で差異がある。
しかしながら、切截部の差異は、曲折した位置によつて生じたものであり、水平部分も極く僅かなものであつて、両者ともに「<省略>」状に切截した印象を看者に惹起させるから、部分的な微差にすぎない。更に、吊環の差異も、横長長方形環の一短辺部を円弧状に形成した点で共通しており、この共通点から受ける印象を凌駕して看者に別異感を与えるほど顕著な差異ではないから、部分的な差異にすぎない。
4 以上のとおりであつて、両意匠は、主要部において共通しており、部分的な差異があつても、意匠全体として観察した場合には、相互に類似しているというほかない。
したがつて、本件登録意匠は、意匠法第九条第一項の規定に違反して登録されたものであるから、同法第四八条第一項第一号の規定により、その登録は、これを無効とする。
〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。別紙図面 (一)
<省略>
別紙図面 (二)
<省略>